【福島】「あの土地を復興のシンボルとして使ってくれるなら、無償提供したいと思っているんだ」
浪江町津島地区の元町議、三瓶宝次さん(84)は取材に語った。
「あの土地」とは、日本テレビ系列の番組で、アイドルグループ「TOKIO」が農作業を体験した「DASH村」があった場所だ。親類が開拓した土地を買い取り、三瓶さんが管理してきた。
「まさか、あんなに有名になるとは思わなかった」
ある日、福島出身のディレクターがやってきて、「ロケ地に使いたいので貸してほしい」と頼まれ、自宅から約2キロ離れた約4ヘクタールの山林や田畑を貸した。
ディレクターが語る番組名も、TOKIOというアイドルグループも、聞いたことはなかった。番組に出て、農作業を指導してほしいと頼まれたが、当時町議だった三瓶さんが出演するとロケ地がばれてしまう。番組では「DASH村」の場所は秘密だった。
三瓶さんは裏方に徹し、番組には妻や知人を登場させて、TOKIOのメンバーに農作業を教え込んだ。
「彼らはいつもハキハキとしていて、一生懸命農作業に取り組んでくれた」
古民家を舞台に、アイドル自らが田植えや炭焼きを体験し、自給自足の生活を送る。そんな農作業の風景が、高齢者には懐かしく、都会の若者の目には新鮮に映った。TOKIOは「農業アイドル」として有名になり、若者の間に田舎暮らしのブームが起きた。
しかし、2011年の原発事故で津島は帰還困難区域になり、「DASH村」にも入れなくなった。それでも、いつか「村」が再開される日が来ると信じて、草刈りなどの管理を続けてきた。
「TOKIOにも色々と事情があるのは報道で知っている」と三瓶さんは言う。「でも、『DASH村』は今も多くの人の心に生き続けている。撮影は無理でも、ファンが当時使われていた古民家を訪れたり、若者が実際に農作業を体験したりできる、そんな津島地区の復興の足掛かりにできないだろうか」(三浦英之)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル