人々の出会いや旅立ちの場となってきたJR北海道の18駅が12日、最後の客を迎え、それぞれの歴史に幕を下ろした。
13日からのダイヤ改定にともない、利用客の少ない宗谷線12駅、石北線4駅、函館線1駅、釧網線1駅が12日を最後に廃駅となった。
名寄市の宗谷線北星駅。1959(昭和34)年に開業した。大正から戦後にかけ、近隣には入植が続き、一時は70世帯が暮らしていた。離農が進み、今は駅前に高木その子さん(78)が一人暮らすだけになった。
高木さんは2015年までの30年あまり、冬には駅のホームや、ホームまでの道を雪かきしてきた。吹きだまりには一晩で1メートルもの雪が積もることもあった。木製のホームは、スコップを雪に入れると、頭を出した釘にひっかかることもあった。そのたびに金づちで打ち直していた。
この間、21人の高校生が駅から学校へ通った。「子どもたちや運転士が『おはよう』『ありがとう』と言ってくれるのが、うれしかった」。腰を悪くし、今では列車をほとんど利用しなくなった。「利用する人が少ないから、廃駅はしかたがない。でも、家にいても列車が止まって、また走り出す音が聞こえる。それがなくなるんだね。寂しい」
この日は市民有志によって「ありがとう北星駅」と印刷された「北星駅では最初で最後の駅弁」が売られた。別れを惜しんで訪れた人たちは、思い思いの時を過ごしていた。
午後7時45分、最終列車の音威子府(おといねっぷ)行きが北星駅を発った。ホームに立った高木さんは乗客たちへ懸命に手を振っていた。
比布(ぴっぷ)町の宗谷線の南比布駅と北比布駅は1955(昭和30)年、仮乗降場として歩みを始めた。通勤通学や農産物の輸送に使われた。南比布駅では「ありがとう南比布駅」の横断幕を持った町民ら約10人が、午後2時22分発名寄行きの列車を出迎え、見送った。駅のそばに住む桐一郎さん(81)は「ホームの土台作りのため、若い頃に砂利を運んだんだ」と懐かしんだ。
80年に放送され、人気となった磁気治療器ピップエレキバンのテレビCM。比布駅のホームに立った俳優の故・樹木希林さんと製造会社のピップフジモト(現ピップ)の会長が、最後に「僕、北比布」「じゃあ、あたし南比布だ」と南北に歩き出す。ピップは「CM舞台の隣駅。『ピップ』同士、ご縁もありましたので、廃駅とは寂しい限りです」とコメントした。(本田大次郎)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル