視覚障害のある中高生らがアニメ「ONE PIECE」や「AKIRA」の有名声優の指導を受け、豊かな表現力を身につける「声の力」プロジェクトに、12月と1月、筑波大付属視覚特別支援学校(東京都文京区)などの生徒らが参加した。仕上げの朗読劇をリモートで収録した生徒らは、「力を出し切れた」「プロに発声や表現を指導してもらう経験ができてよかった」と完成の喜びを語った。
文化庁補助事業の「声の力」は2019年にスタート。「日本の未来を語ろう」をコンセプトに、様々なコミュニティーを作って「対話」をメディアで発信するプロジェクト「朝日新聞DIALOG」の主催だ。19年度は生徒らがラジオドラマを制作し文化放送「青山二丁目劇場」でオンエアした。20年度は11月から筑波のほか神奈川県立平塚盲学校などで開催し、コロナウイルス感染拡大の影響で延期した授業もあるが、オンラインに切り替えるなどして進めている。
昨年12月19日に東京・築地で開催された特別出張授業には、筑波大付属視覚特別支援学校高等部の11人が参加。「ONE PIECE」エース役、「ドラゴンボール」シリーズのピッコロ役などで知られるベテラン古川登志夫さんが講師を務めた。
声優志望者に講義する機会も多い古川さんは冗談を交えつつ、基礎となる呼吸法や発声、喜怒哀楽の表現を指導。「一番難しいのは『笑い』。コツがあって『はっはっは』の前に『あー』をつけて『あーっはっはっは!』と笑うと勢いのいい笑いになります。さあ皆さん、やってみて」
生徒らは透明なついたてで仕切られマスクをつけたままだったが、マイクに向かって力強く声を張り上げた。
1月中旬に東京都内で予定していた「合宿」は、オンライン会議システム「Zoom」に切り替え30、31日に開催した。同校高等部と筑波大付属高校(文京区)から、視覚障害のある5人と障害のない5人が参加。「AKIRA」の主人公・金田役で知られる岩田光央さんが講師を務めた。
テキストは内田健さん作「シリウスくんの不思議かいけつ日記」。生徒らは2チームに分かれ、擬人化された星のキャラクターや語り手を分担して演じた。顔を合わせての朗読ではないが、岩田さんは「リモートの画面でお互い見られています。自分の番じゃない時も役の気持ちのまま、お客さんに見られているという意識でいて下さい」と指導した。
「遠くの相手に大声で呼びかけるのか、すぐ近くの相手にささやくのか、自分でイメージして」「そこは『困ってるんだな、助けてあげたいな』という気持ちを強く出して」。岩田さんの指示で声の演技が表情豊かになっていき、最後の録音に臨んだ。
終了後、筑波大付属視覚特別支援学校高等部2年の田中紫音さんは、「みんながどんどん上手になっていくのを感じ、ワクワクしながら自分のセリフを読んでいた」。筑波大付属高校2年の谷澤優香里さんは「コロナの影響で人と会う機会が減る中で、リアルな声で気持ちを伝える大切さを実感した」と話した。
2チームによる朗読劇は3月中旬ごろ、「声の力」プロジェクト特設ページ(https://www.asahi.com/dialog/voice-power/)で公開する予定。(小原篤)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル