恋愛リアリティー番組「テラスハウス」に出演していた女子プロレスラー木村花さん(22)が5月に亡くなりました。木村さんは番組出演をきっかけにツイッターで誹謗中傷を受け、遺書があったと報じられています。会員制交流サイト(SNS)で誹謗中傷を受けたりプライバシーを侵害されたりといったネットトラブルを解決するには、今の司法の枠組みでは多大な労力と金銭がかかり、得るものは少ないとも言われています。札幌弁護士会の川島英雄弁護士に、対処法や課題を聞きました。(聞き手 田中徹 グラフィック 瀬田石拓未)
――これまで、どんなトラブルの相談を受けてきましたか。 約10年前の事件が印象的です。ツイッターがいまほど普及しておらず、ミクシィやアメブロ、匿名掲示板が流行っていたころです。掲示板で匿名の誹謗中傷合戦がエスカレートし、本名を公にされたという相談でした。 相手側を特定して通知を出しましたが、当初は知らぬ存ぜぬという態度でした。最終的に訴訟まで至り、解決しました。相手が特定できたこともあり、記憶に残っていますね。 その後、ネットのトラブルが増え始めました。弁護士もみんながネットトラブルに詳しいわけではないので、一般の法律相談だとこうした問題にはなかなか対応が難しいこともあり、相談が来るようになりました。 最近は、ツイッターを中心にSNSのトラブルが多いですね。中には悪口を言われただけということ、社会的評価が下がっていないような、微妙なケースもあります。
■プロバイダー責任制限法の趣旨
――プロバイダー責任制限法(プロ責法)では、他者を誹謗中傷する表現を行った発信者の住所、名前、電話番号などの情報について、被害者側がプロバイダーに開示を求めることができると規定されています。 現在の枠組みでは、まずプロバイダーに発信者情報を開示させて、その上でさらに発信者に慰謝料・損害賠償を請求するという流れになります。しかし、被害救済までには相当な費用と時間がかかります。 まず、SNSやコメント欄、掲示板などを運営する事業者(コンテンツプロバイダー)に対して、ツイートや書き込みのタイムスタンプ(発信時刻)とIPアドレス(インターネットに接続された機器を判別する番号)の開示を求めます。これで開示されたIPアドレスを基に、インターネット接続プロバイダーを突き止めて、さらにその接続プロバイダーに対して、接続者、契約者情報などの開示を求めます。 最初のコンテンツプロバイダーに対する開示請求は、まず、裁判手続きではない任意で行いますが、任意で開示されるケースはほとんどありません。 というのも、接続プロバイダーをはじめ通信事業者には通信の秘密を守る義務があります。プロ責法は、厳格な要件が満たされる場合だけ発信者情報を開示できるという趣旨のため、開示請求があっても「下手に答えない方が良い」 というインセンティブ(動機)が働きやすい構造になっています。 ですから、一般的には任意開示を拒否されてから、コンテンツプロバイダーに発信者情報開示を求める仮処分を申請し、そこで突き止めたIPアドレスを基に接続プロバイダーを訴え、発信者を特定するということになります。接続プロバイダーに対する訴訟では、接続プロバイダー側の弁護士は、通信の秘密があるので、形式的にでも開示にはきちんと反論してきます。そのため、一般論として、仮処分申請を行ってから開示に至るまでには、数カ月から半年くらいかかります。 ――発信者を特定するだけでも、相当な手間がかかりますね。 こうして発信者を突き止め、通知を送って示談交渉などに応じてもらい和解できれば良いですが、通知自体を無視されることもあります。そうなると次の手続き、調停や裁判となります。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース