楽天に勤務していた男性が、勤務中に直属の上司から暴行を受け、その結果、頸椎不全損傷とうつ病をわずらい、労基署による労災認定を受けていたことが、12月上旬に明らかにされた。
チーム会議中の発言を自分に対する批判と受けとめた上司が激高し、被害男性の首付近をつかんで持ち上げ、壁際に押さえつけたという。男性は後遺障害準用2級とも認定されている。
「パワハラで労災」という見出しで報じられることもあったが、ネット上では「パワハラなんてもんじゃなくて傷害罪だろ」という声も少なくなかった。
「パワハラ」事案が刑事的な問題となるか否かの判断はどのようになされるのだろうか。労働問題に詳しい波多野進弁護士に聞いた。
●パワハラなど労災の問題は刑事の問題と両立しうる
ーー楽天の事案では労災が認められました
「報道された通りの行為があったのなら、会議での発言をきっかけに上司が暴行傷害に及んだのですから、業務に関連したものであり、労災認定されたのは当然と言えます」
ーー職場での暴行や傷害はすべて労災の問題になるのでしょうか
「個人的な恨みやトラブルのように、業務とは無関係に暴行や傷害行為が行われたという特段の事情がない限り、労災の問題になります。
たとえば、仕事と全く関係のない趣味の集まりでトラブルが起こり、恨みを持った従業員がもう一方の従業員に『たまたま仕事場で』暴行に及び怪我をさせてしまった場合、業務とは無関係なので労災の問題にはなりません」
ーー労災認定がされた場合、刑事の問題にはならないのでしょうか
「パワハラなどの労災の問題は刑事の問題と二者択一というわけではなく、刑事の問題にもなりえます。また、民事の損害賠償の問題(加害者本人及び会社に対する)にもなりえます」
ーー楽天事案は刑事の問題になりうるケースなのでしょうか
「楽天事案については、報道内容を前提にしますと、実際に上司の暴行の結果、頸椎不全損傷という傷害の結果が生じているので、傷害罪に該当することは明らかだと思います。
被害者の方が被害届ないし告訴状を出し、その立証ができるなら刑事的な問題にもなると思います」
●在職している場合は刑事問題にまで至らないケースが多い
ーーパワハラについて、刑事の問題となっていることが少ないように感じます
「重大な傷害結果が生じた場合にはパワハラという次元を超えていると言え、刑事的な処罰を求めるのが適切な場合が多いように思われます。
しかし、在職している場合には会社が刑事問題にすることを望んでいない場合が多く、かつ、会社がその意向を示したり、積極的にその意向を示していなくても、被害者(従業員)は会社の意向を忖度してなかなか刑事問題にしづらい事情があるため、実際には刑事問題にまで至らないケースが多いのではないでしょうか。
また、警察の窓口でも被害届や告訴を本来なら拒絶してはならないのに、被害者が警察に赴いても色んな理由を付けて受け付けず、単なる相談扱いにされてしまうことが多いように思います。
警察には診断書を持参のうえ、被害届を出しに来たことを伝えて、被害届を受け付けるようにはっきりと求める必要があります」
【取材協力弁護士】
波多野 進(はたの・すすむ)弁護士
弁護士登録以来、10年以上の間、過労死・過労自殺(自死)・労災事故事件(労災・労災民事賠償)や解雇、残業代にまつわる労働事件に数多く取り組んでいる。
事務所名:同心法律事務所
事務所URL:http://doshin-law.com
Source : 国内 – Yahoo!ニュース