気象庁が最大級の警戒を呼び掛ける台風10号が迫り来る中、九州各地では厳戒態勢が広がった。7月豪雨の被災地や、台風9号で被害に遭ったばかりの長崎県五島市の住民たちは復旧もままならない状況で「またか」と疲れを色濃くする。21年前、台風による高潮で多くの犠牲者が出た熊本県の八代海沿岸の住民たちも、それ以上といわれる「特別警報級」の台風の接近に警戒を強めた。 【地図】台風10号の5日先予想進路 1999年の台風18号で高潮が発生し12人が犠牲となった同県宇城市不知火町松合地区。漁港には今年7月の記録的豪雨で八代海に流れ出した流木などが山積みになっている。松合漁協の江川賢一理事(73)は「漁の再開に向け、やっと海岸の漂着物を陸に引き揚げ終えたばかりなのに」とこぼした。流木の山には飛散防止の網が掛けられたが「暴風で吹き飛ばされないとは言えず、恐ろしい」。6日昼ごろには近くの避難所へ移動するという。
台風10号の接近は八代海の満潮時刻と重なり、住民は「また堤防を越す高潮が来てもおかしくない」と危機感を募らせる。高潮被害の犠牲者を悼む石碑が立つ公園で犬の散歩をしていた女性(83)は「あの時、気が付いたら自宅から出られなくなり、一時はもう駄目かと思った」と振り返り、「逃げ遅れた人が犠牲になった。早く逃げる。それしかない」と話した。
7月の豪雨による河川氾濫や大規模浸水で被害を受けた地域でも、対策が進んだ。大分県日田市天瀬町の天ケ瀬温泉街の住民たちは、ほとんどが台風に備えた作業を終えていた。 濁流に流された事務所のガラス部分に雨戸を固定していた自営業安達豊さん(67)は「大雨の次は巨大台風。水害にぴりぴりしている」と疲れた様子。美容室が被災し、仮店舗で営業を始めたばかりの中野須磨子さん(73)は「店の入り口はベニヤ板でできており、倒れてきたらどうしよう」と不安を口にした。
一帯が浸水した福岡県久留米市城島町の溝田善雄さん(79)は「また自宅が浸水したら気がめいる」。園芸用の土が入ったビニール袋を土のうの代わりに玄関前に置くという。「進路が少しでもそれてくれるといいが…」と祈った。 2日に台風9号の暴風域に入り、家屋倒壊などの被害が出たばかりの長崎県五島市。5日には台風10号に備えた避難所が42カ所開設され、朝から多くの住民が訪れた。 市民体育館に避難した八尾富子さん(78)は台風9号の際、近所から壁の一部が飛んできて屋根の上を転がる音を聞き「生きた心地がしなかった」という。自身が栽培しているキャベツ畑に防風ネットをかぶせてきたが「飛ばされて、売れなくなるのでは」と心配そうに話した。 (綾部庸介、鬼塚淳乃介、野村大輔、野田範子)
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