防衛省が計画する佐賀空港(佐賀市)への陸上自衛隊の輸送機オスプレイ配備を、佐賀県の山口祥義知事が受け入れる考えを示してから、24日で1年がたった。配備の前提となる新駐屯地建設に必要な土地は、地元漁師らが所有。同省はカギを握る漁協への説明を始めたが懸念は解消されておらず、同意を得られる見通しは立っていない。
佐賀市の県有明海漁協本所で9日、知事の受け入れ表明後初となる同省による説明会が開かれた。土本英樹・大臣官房審議官は、漁協と15支所の幹部ら約50人を前に「配備を何としても実現したい」と訴えた。
計画では、有明海沿岸にある空港西側の農地など約90ヘクタールの一部を買収して新駐屯地を建設し、オスプレイ17機などを置く。地権者は漁協組合員の漁師ら500人以上。新駐屯地の広さは33ヘクタールだが、それでも多数の地権者との交渉が必要となる。土本審議官は「用地取得の範囲は皆さんとよく相談して決めたい」と説明した。
関係者によると、説明会では報道陣を退出させた後、別の同省幹部が、漁港と航路の浚渫(しゅんせつ)や冷蔵庫設置、漁協本所建て替えといった支援が可能、として地域振興の事業を紹介した。出席した漁協幹部は説得のために「アメ玉をぶら下げてきた」と受け止めた。漁協の徳永重昭組合長は終了後、報道陣に「ちょっとした振興策が示された。あまり気分は良くない」。
山口知事も5月に漁協を訪問し、受け入れを決めた経緯を説明。佐賀空港建設にあたって、県が地元関係漁協と1990年に結んでいた公害防止協定の関連文書にある、自衛隊との空港共用を否定する一文を変えたいとの意向を伝えた。受け入れによって、国から県に「着陸料」名目で毎年5億円ずつ、20年間で計100億円が支払われることから、基金をつくって漁業振興に充てる計画も示した。
ただ、同省と県による説明を受けても漁協の「『環境問題を起こす施設は来てくれるな』が基本姿勢」(徳永組合長)という立場は、変わっていない。建設工事や駐屯地からの排水、事故による汚染などが海に悪影響を及ぼしかねないとの不安があり、国への不信感をぬぐえないからだ。
9月になると、ノリ漁の準備が本格化する。漁が続く来年4月ごろまで、漁師たちとの話し合いの時間を確保するのが難しくなる。土地を取得する同意を得られたとしても、建設にも数年はかかる見込みだ。推進する自民党県連の幹部は「漁師の中には、駆け引きで反対と言っている人もいる。国が買収価格を示して(価格交渉を)主導すべきだ」と焦りを深める。
同省は今年5月、オスプレイの運用を想定する水陸機動団がいる陸自相浦(あいのうら)駐屯地(長崎県佐世保市)から、千キロ近くも離れた陸自木更津駐屯地(千葉県木更津市)に、オスプレイを暫定配備する方針を示した。木更津市内で今月3日にあった市民説明会で、同省は暫定配備の期間を明示しなかった。佐賀県幹部は「佐賀で受け入れるかどうかはっきりしていないのに、暫定配備がいつまでかなんて答えられないだろう」と話した。(福岡泰雄、福井万穂、平塚学)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル