君が好きだった梅が今年もほころび始めたよ-。福岡県久留米市の古賀邦雄さん(75)は10年前、妻ななさん=享年(61)=を肺がんで亡くしたのをきっかけに、自宅から近い思い出の地の宮ノ陣神社(同市)に梅の献木を続けている。しだれ梅、紅梅、白梅…。早春を告げる約30本が今年も見学者を楽しませている。
古賀さんは水資源開発公団(現・水資源機構)の元職員で、退職後は約1万3千冊の河川、湖沼、水に関する蔵書を公開する私設図書館「古賀河川図書館」を主宰している。
現役時代は転勤族で、単身赴任は約10年に及び、妻には子育てなどで苦労を掛けた。それでも「愚痴は全く聞いたことがない」と古賀さん。書籍の収集も、自宅で図書館を開くと決めた時も「あなたが亡くなったら売るわよ」と冗談を言いながら、手伝ってくれた。「図書館を訪れる大学の先生から『大変でしょう』と声を掛けられてもニコニコと笑うだけでした」
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定年後は梅の季節に2人で太宰府天満宮に参拝し、梅ケ枝餅とお茶を楽しんだ。亡くなる2カ月前、入退院を繰り返しながら「梅を見たい」というななさんと出掛けたのが、市指定天然記念物「将軍梅」などでも知られる梅の名所、宮ノ陣神社だった。晴天で体調もよかったななさんは、時間をかけて梅の花と香りを楽しんだ。
ななさんは約2年の闘病の末、2010年4月死去。古賀さんは「夫婦でゆっくりという矢先。私は自分のことばかりで、もっと早く病魔に気づいてあげられればよかった」と悔いた。
ななさんのために何か残したいとの思いで、神社側に相談。境内には100本以上の梅が植えられているが老木や弱った木もあり、13年1月、名前にちなみ初めて7本を植えた。以来数本から10本、総代に相談しながら献木を続ける。うち1本の紅梅には「ななの梅」と記された寄贈銘板が立てられた。神社のお祭りにも毎年、招待される。
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転勤のたび、その土地を楽しみ、趣味の児童文学を通して交友関係も広かったななさん。古賀さんは高齢を理由に昨年、2人で切り盛りした私設図書館の蔵書を久留米大に寄贈することを決めた。知らせを聞いた妻の友人からもねぎらいの手紙が届いた。
3月までに全ての運び出しは終わり、これを機に広すぎる2階建ては引き払う。新居は宮ノ陣神社のすぐ裏だ。
「君偲(しの)び清楚な梅に語りかけ-」。歌にも詠んだななさんへの思いを胸に、古賀さんは「少しずつ増やして由緒ある神社の梅をもっと多くの人に知ってもらいたい。妻も喜んでくれるはず」と話す。(山口新太郎)
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