緑川夏生、長橋亮文、西村奈緒美
東京電力福島第一原発事故で福島県から新潟県に避難した237世帯801人が国と東電に計88億5500万円の損害賠償を求めた集団訴訟の判決が2日、新潟地裁であった。篠原礼裁判長は、636人に1億8376万円を支払うよう東電に命じる一方、国の責任は「事故は防げなかった」として認めなかった。
全国の同種の訴訟で、地裁が国の責任を否定したのは今回で8件目。ほか8件では国の責任を認め、判断が割れている。東電の責任は16件すべてで認めた。高裁は3件中2件で国の責任を認めている。
原告らは2013年7月、避難による精神的損害の慰謝料など1人あたり1100万円の賠償を求めて提訴。原発事故への国の責任や、賠償の目安となる国の指針を超えた慰謝料を認めるかが争点だった。
判決は、政府の「地震調査研究推進本部」が02年に公表した地震予測「長期評価」などに基づけば、国は津波が到来する可能性を認識できたと指摘。だが、科学的根拠のある知見は十分ではなく、防潮堤の設置には長期間を要することなどから「事故を防ぐことは困難」だったと国の責任を否定した。
原告の8割を占める避難指示区域外からの自主避難者の避難については、合理性を認めた。転職・転校での苦労、住み慣れた土地から離れざるを得なかった「ふるさと喪失」など「多様な精神的苦痛を被った」として、国の「中間指針」に基づく賠償の他に、1万1千円~33万円の支払いを東電に命じた。一方、避難指示区域内の原告の多くは東電がすでに支払った賠償額に収まるとして、請求を棄却した。
判決後、弁護団は会見で「避難の合理性を認めるというならば、どれだけ生活が破壊されたかをしっかり見てほしかった。金額が見合っていない」と批判した。福島県郡山市から新潟市に避難した菅野正志さん(46)は「国の責任が認められなかったことが残念。東電を監督すべき国の責任が問われなかったのはおかしい」と話した。
原発事故の賠償問題に詳しい除本(よけもと)理史(まさふみ)・大阪市立大教授は「国の責任を否定したという点でも、賠償認容額が原告の請求に比べて極めて低いという点でも、原告の受けた被害の重大性を裁判所は直視していない」と指摘した。(緑川夏生、長橋亮文、西村奈緒美)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル