水温12度の冷たい海水を満たし、深海を模した薄暗い水槽で、国内の飼育記録をひっそりと更新し続けているサメがいる。鳥羽水族館(三重県鳥羽市)で1990年12月から飼育されているヒゲツノザメだ。これまで長寿を祝うイベントさえ催されなかった地味で目立たない存在が、脚光を浴びる日が来るかもしれない。
ヒゲツノザメをはじめとする海洋生物の飼育を任されている飼育研究部課長の高村直人さん(53)が、思わずほっとする瞬間がある。
三枚に下ろしたアジや短冊状にカットしたイカを、細長い棒に突き刺す。
棒が向けられる先は、水槽の「主役」タカアシガニではなく、のんびりと優雅に泳ぐヒゲツノザメの口元だ。
「ピンポイントで口元にエサが行くと、吸い込むように食べてくれます」
体長は1メートルほどあるのに、週3回しかエサを食べない。しかも1回の食事量は、わずか数十グラムという。
「時折、エサに見向きさえしないこともあり、食はとにかく細い」と高村さんは苦笑する。
ヒゲツノザメは、鼻先に名前の由来となった2本の「前鼻弁」を持つ。太平洋に広く生息するものの、大陸棚の斜面や海底など深さ100メートル以上の深海で暮らすため、捕獲されることはめったにない。
国内では鳥羽水族館など4施設で5匹しか飼育されておらず、詳しい寿命も分かっていない。せっかく飼育を始めても、1週間程度で死んでしまうこともあるという。
ただ、鳥羽水族館の1匹だけが、なぜか30年以上も長生きし、国内の飼育記録を更新し続けている。高村さんは「三重県志摩市沖ではえ縄漁船が捕獲した個体で、傷もなく、良い状態で水族館に運ばれてきた。飼育環境に適応してくれたのも大きい」と分析する。
「ストレスが心配、ひっそり生きて」
そんな貴重なヒゲツノザメだが…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル