ミニーメイは幸せかな。猫を見かけるたび、茨城県常総市の登坂明子さん(56)は、飼っていた猫を思い出す。きれいな茶トラのお母さん猫だった。
「うちの猫が赤ちゃんを産んだんだけど、もらってくれない?」
約40年前、明子さんが高校1年の時。近所の人がそう言ってくれた。家族は両親と明子さん、8歳下の小学生の妹・陽子さんの4人で全員猫が大好き。喜んで迎え入れた。「赤毛のアン」の登場人物から「ミニーメイ」と名付けた。
当時、猫の放し飼いは珍しくなかった。今は感染症や交通事故、繁殖を防ぐため環境省は猫の室内飼育を推奨しているが、家の中と外を自由に行き来する飼い猫も多かった。
実家周辺は車通りも少なかった。ミニーメイがドアの前を行ったり来たりすると、誰かがドアを開けて外に出す。夕方、「ニャア」と聞こえたら家に入れる。ミニーメイは午後5時までに必ず帰宅し、パートから戻る母を迎えた。
野良猫と思われないよう首輪を付けていた。
肌寒い夜のお気に入りは、明子さんの布団。妹はお姉ちゃんばかりずるいと怒った。「どこを歩き回ったかわからないミニーメイと、シャンプーもしないで一緒に寝るなんて」と今は苦笑するが、当時はそれが幸せだった。
その年の秋。ミニーメイのおなかが膨らんでいるのに気づいた。妊娠していた。妊娠後も明子さんの布団に潜り続けた。
ある朝。明子さんは足元の冷たい感触で目が覚めた。布団をめくると、ミニーメイが赤黒い塊を二つ抱えていた。死産だった。慌てて母を呼んで部屋に戻ると、ミニーメイは子猫をガリガリとかじり始めた。
母が、隙を見て赤ちゃんを庭に埋めた。ミニーメイは「ナアナア」と低い声で鳴いた。ベッドの周囲をぐるぐる歩き回っていた。
翌年の春。今度は元気な子猫を2匹産んだミニーメイは、塀の外に出なくなった。庭の柿の木に子猫が登るのを眺め、母乳をあげて過ごす日々。時々小学生が子猫を塀の外に呼び出して遊んだ。ミニーメイは子猫が人に触られるのを嫌がった。
それから約2カ月。明子さんが学校から帰ると子猫がいない。家族全員で探しても見つからない。
私、なぜそんなことをしたの……今でも思う
毎日、ミニーメイは外出し…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル