北海道・知床半島沖で昨年4月、観光船「KAZUⅠ(カズワン)」が沈没した事故で、運航会社「知床遊覧船」の桂田精一社長(59)が朝日新聞の取材に答え、国の運輸安全委員会が浸水の要因と指摘したハッチの不具合について「事故前には把握していなかった」と述べた。事故から23日で9カ月。第1管区海上保安本部(北海道小樽市)は桂田氏を運航管理者として業務上過失致死罪に問えるか、慎重に調べている。
桂田氏は事故から4日後の4月27日に記者会見を開いたが、その後は公の場で説明していない。朝日新聞は1月、対面や電話、書面で桂田氏に複数回取材を試み、計約30分間話を聞いた。
運輸安全委は昨年12月に公表した報告書で、ふたに不具合があった船首部分のハッチが開いて船内に海水が流れ込み、沈没したと指摘した。桂田氏は報告書は読んだと明らかにした上で「事故前には(ハッチの不具合を)把握していなかった。船が揚がってから知った」と答えた。事故前の昨春、知床遊覧船関係者がふたの閉まりの悪さに気づき、甲板員に対応するよう求めていた。
桂田氏は取材で、事故3日前に国土交通省所管の日本小型船舶検査機構(JCI)による中間検査を受け、「合格」していたことにも言及。「JCIの検査でチェックされて問題ないということだったので、それを信じて(運航を)やっていた」と述べた。
カズワンは昨年4月23日午前10時にウトロ漁港を出航。網走地方気象台はこの日、風速が最大15メートル、波の高さが3メートル以上になるとして強風・波浪注意報を発令し、同業他社や漁協関係者らは、死亡した豊田徳幸船長(当時54)に出航をやめるよう忠告していた。
出航前に船長と可否を判断したという桂田氏は「波は穏やかだった。全然いけるという判断だった。午後は荒れるのは分かっていたけども、その感じを見て帰ってくるという折り返し運転だった。あとは船長に任せた」と説明した。
一方、桂田氏は「実際に事故を起こして、これだけ多くの方が亡くなっているので、そこはすごく責任を感じる」と述べ、乗客の家族らに謝罪する意向を改めて示した。
会社の運航管理者でもある桂田氏は、運航管理者に必要な3年以上の実務経験がないのに、あると偽って届け出ていた。運航管理者は運航中、原則事務所で勤務すると海上運送法に基づく会社の安全管理規程で定められているが、運輸安全委は報告書で「事務所にいないことが常態化していた」と指摘した。
こうした点について、桂田氏は直接は説明せず、「(前任の)運航管理者が急に亡くなった。やる人がいないので、社長がすべからくなるんだというかたちだと思う」と自らの就任の経緯について語った。
業務上過失致死容疑で捜査 焦点は「出航判断」
第1管区海上保安本部が業務…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル