2014年に発売されたポーランド発の地図絵本「マップス 新・世界図絵」に、新たな国・地域を盛り込み9月に発売されたのが「マップス 愛蔵版」(徳間書店)だ。4950円(税込み)と高額にもかかわらず、発売2か月あまりで約6万部を突破のベストセラーとなっている。20年には東京五輪の開幕を迎え、外国の話題や交流が盛んになり、「世界」への関心が高まっているなか、ぜひ手にとってほしい一冊だ。(奥津 友希乃)
縦38センチ、横28センチの大判地図絵本を開くと目に飛び込んでくるのは、見開き2ページにぎっしりと描かれたかわいらしいイラスト。各国・地域の有名な人物や観光名所、独特な食べ物、見たことのないような動物たち…。古地図のような茶色みがかった、少しザラッとした手触りのページを次々にめくっていくと、まるで世界旅行をしているような気分が味わえ、ついつい時がたつのを忘れてしまう。
著者は、ポーランドの絵本作家夫妻のアレクサンドラ・ミジェリンスカさんと、ダニエル・ミジェリンスキさん。イラストや文章の役割分担はなく、ふたりで手分けして作業している。夫婦は仕事でもプライベートでもけんかをしたことはないという。
妻のアレクサンドラさんは、母親が地図を作製する仕事をしており、幼い頃から地図に親しみがあり、夫のダニエルさんは図版を見ることが幼い頃から好きだったという。10年ほど前から地図絵本の制作を始め、原著を12年に出版。世界中で反響を呼び、30以上の言語に翻訳され、世界累計300万部を突破した。「マップス 愛蔵版」では前作から情報を更新し、新たに20か国・地域を加えて62の国・地域を紹介し、35の言語に翻訳されている。
描かれたイラストの総数は6000を超え、その全てが夫妻の手描きで、同じ絵はふたつとない。徳間書店の児童書編集部で、本作の担当編集・田代翠さんは「夫妻は、マップスをつくる上で非常に強いこだわりを持っています。ページをめくっていくと、ヒグマや小麦の絵が複数回登場しますが、コピーではなくひとつひとつ手描きでヒグマのポーズや小麦の粒の数や形を変えているんです」。登場人物の男女比をできるだけ均等にするなど細かい工夫をこらしているという。
紙の調達も印刷も、全て夫妻の管理のもとで行われ、1か国ごとに全て種類の違う古い紙をスキャンして背景にし、古地図のような味を演出している。日本語訳版の本作もポーランドで製本され、船で運ばれてきたものだ。田代さんは「各ページの国名も日本語版も夫妻の手書きです。その他のフォントは日本人デザイナーが手書き風の味があるフォントを選び、夫妻に相談をして試行錯誤を繰り返しました」。細部まで妥協を許さないため、1か国を完成させるのに1か月近くかかるという。
そんな夫妻や、制作に携わった人の魂がこもった「マップス」シリーズは、世界中の子どもや大人から愛されている。児童書の編集歴10年の田代さんも「マップスは一番大きい存在です。夫妻も言っていますが、今はネットで何でも調べられる時代。この本はイラストが主体で説明書きが少ないのですが、よく知らないものが載っているところも面白いところ。読んだ人の好奇心の入り口になってくれればうれしいです」。
来年に開幕する東京五輪での競技観戦や、訪日外国人との交流をきっかけに、世界の地理や文化に興味を抱く子どもや大人は多いことだろう。そんな時はミジェリンスキ夫妻が描く世界地図をたどり、いまだ見ぬ世界への旅に出てみるのもいいかもしれない。
◆ダニエルさんは日本大好き
夫のダニエルさんは、担当編集の田代さんによると「日本のポップカルチャーが好きで、“日本オタク”なんです」。ヨーロッパで放送されていたアニメ「機動戦士ガンダム」シリーズや、「AKIRA」が小さい頃から大好きだったという。
本作には、各国のページに男女の代表的な名前がイラストとともに書いてあるが、日本のページを見ると男が「あきら」、女が「みさき」が代表例となっている。田代さんによると「各国の統計データをもとに名前を選んでいるようですが、日本の『あきら』に関しては、ダニエルの希望で大好きな『AKIRA』から取っていると聞いています(笑い)」と明かしてくれた。
◆アレクサンドラ・ミジェリンスカ、ダニエル・ミジェリンスキ夫妻 ポーランドの絵本作家。ともに1982年生まれ。ワルシャワ美術アカデミー出身。2011年、「大きくなったらなんになる?」(未邦訳)でボローニャ・ラガッツィ賞ノンフィクションの部優秀賞。「マップス」シリーズのほかに「アンダーアース・アンダーウォーター 地中・水中図絵」「地球から宇宙をめざせ!」(ともに徳間書店)などがある。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース