学校現場から「HB」の鉛筆がなくなりつつあるという。なぜいま、2B以上が主流になっているのか。鉛筆といえば、小学校には「シャープペン(シャーペン)禁止」「バトルえんぴつ(バトエン)禁止」の決まりがあった。今の学校にも残っているのだろうか。
鉛筆の現状について小学生の子どもがいる同僚に聞くと、「小3の娘は2B15本、B1本、HB0本。2Bの圧勝です」「小2の息子の筆箱は2Bと4Bだけ」といった答えが返ってきた。「HBはお姉さんの証しだった」と小学生時代を回顧する声もあった。
東京都内のある公立小学校は、今年度の入学のしおりに「鉛筆は2Bを5本持たせてください」と記載した。副校長によると、数年前までは新入生でHBを用意している家庭もあった。ただ、実際に使ってみると字が薄くて読みにくいなど、「2Bであればもっといいのかなというのが実感だった」。高学年でもB以上の使用が目立つという。
データにも変化は表れている。
三菱鉛筆によると、2001年の学童向け鉛筆の販売割合は2Bが50・0%、HBが14・0%なのに対し、22年は2Bが74・8%と割合が上昇。HBは0・7%にまで減っている。
トンボ鉛筆は、学童向けと一般向けを合わせた販売実績で、1999年は2B22・1%、HB44・0%だった割合が、2022年には2B53・9%、HB20・2%と逆転している。
トンボ鉛筆の川崎雅生さんは「ICT(情報通信技術)化の中で事務用のHBの需要が減少したことで2Bの構成比が高まっている面がある」と指摘する。
学校現場で2Bが推奨されている理由について、SNS上などでは「子どもの筆圧低下では」との声もある。
これに対し、書写教育を研究する上越教育大大学院の押木秀樹教授は「以前の調査結果と近年のデータとを比較しても、子どもたちの筆圧が低下しているという傾向は得られていない」と否定的だ。
1970年代の調査では、小学校低学年の方が高学年より筆圧が強いとの結果も出ており、一般的に低学年の方が筆圧が強いとみられる。
押木教授は、小学生の字が「薄くなっている」と言われる背景について、「就学前教育が進んだことで、いまの子どもたちは幼いころから鉛筆に慣れ、筆圧の調整能力が高くなっている可能性はある」と指摘する。
その上で、「長く書いても疲れないとされる2Bが推奨されやすいのではないか。大切なのは、相手が読みやすいよう適切な濃さで書くこと。それを理解した上で、自分にあった硬さを選ぶこともよいでしょう」と話す。
ここまで調べてみて、そもそもの疑問が浮かんだ。「H」や「B」の意味は何か。トンボ鉛筆によると、Hは「ハード(かたい)」、Bは「ブラック(黒い)」を表すという。
なぜハードに対してブラックなのか。
同社の川崎さんは「鉛筆は明治維新の際にドイツ、英国から入って一般的になった筆記用具。分類も欧州のものを踏襲している。確かになぜハードとブラックなのか……。そこまではわかりません」。
ちなみに、HBとHの間には、「F(ファーム=しっかりした)」もあるという。アメリカではBやHではなく、数字の「1~5」の5段階だそうだ。川崎さんは言う。「自分にあった硬さを選び、子どもたちには書く喜びを覚えてほしい」
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カチカチカチカチ……。「硬い」というより「細い」。HB鉛筆とともに小学生の憧れだったのが、シャーペンだ。30~40代の同僚に聞くと、多くが小学校時代、使用禁止だった。
現在も、東日本のある公立小学校では、保護者向けのしおりに「シャープペンシルは不可」と記載している。
教頭によると、全学年でシャーペンは原則禁止。理由の一つは「子どもの発達段階では筆圧が安定せず、芯がすぐに折れてしまう」。さらに、「芯の入れ替えなどでペンを触っていると授業に集中できない恐れがある」と指摘する。
同じく全学年でシャーペンを使わないよう指導している都内の公立小学校の教員は「周囲でもシャーペンOKという学校は聞いたことがない」と話す。
文科省によると、特に筆記具についての規定は設けておらず、「学校の裁量」だ。
大阪市内の公立小学校では昨年、「中学校では認められている。小学校でも幅があってもいいのではないか」と使用禁止の決まりを削除した。ただ、多くの児童は鉛筆を使い続けているという。
文房具会社のゼブラが2015年に実施したアンケートによると、対象の小学生300人のうち、49・6%が「使っている」と回答したものの、その中で「学校で使っている」は8・6%にとどまった。半数近くが鉛筆を使い、シャーペンは自宅や塾といった場での使用が多くを占めた。
禁止となった文房具はシャーペンだけではない。転がして遊ぶドラゴンクエストの「バトエン」も1990年代から2000年代、小学生が熱中しすぎたために、一部の学校で禁止となった。
1993年に登場したバトエン。ゲーム会社の「スクウェア・エニックス」が発売した。六角形の鉛筆のそれぞれの面に「全員に10のダメージ」などの指示が書かれていて、最初の持ちポイントが残っていた人が勝ちという減点方式のゲームだ。
子どもの数が減ったことや、シャーペンなどが登場したことなどで、生産量が減りつつあった鉛筆業界を立て直す起爆剤になるほど、人気が高まった。
同社の大沢宗弘さんは「確率計算をしつくして、絶対に勝てる最強の一本を作らないようにしていた。だから子どもたちが夢中になったのかもしれない」と語る。
バトエンは「文房具であり、本格的なゲーム」として大ブームとなったものの、2013年を最後に新商品は作られていない。ただ、17年にオンライン上でバトエンを再現したゲームが登場した。やり過ぎると、家族から「禁止」されてしまうかも?(谷瞳児、江戸川夏樹)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル