首相は「国民の理解なくして前に進めていくことはできない」と発言。はしなくも「国民の理解」が得られていないとの認識を示しました。
法案が実質審議入りした5月8日、ツイッター上で「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグをつけた投稿が凄まじい勢いで拡散し、2日もしないうちに数百万件を記録しました。こうした声が今国会での成立断念につながったといえます。
とはいえ同法案審議は、首相が召集すれば開かれる今秋の臨時国会に持ち越される見込みです。ゆえに、これまでの経緯を振り返り、この法案は「何が問題であったか」を確認していきます。
●一般法の規定で特別法を解釈変更
ことの発端は、今年1月31日の閣議で黒川弘務東京高検検事長の定年(検察庁法では63歳)を政府が6か月延長すると決定してから。黒川氏の63歳の誕生日は今年2月8日で、その前日までに退くとみられていました。
延長が問題視された主たる理由は、現検事総長で63歳の稲田伸夫氏(検事総長の定年は65歳)が慣例の在任期間である2年(就任は2018年7月25日)となる今年7月の前に退き、黒川氏に検事総長就任の可能性を残すための人事と疑われたからです。
閣議決定による定年延長で、黒川氏の任期は8月まで伸びました。東京高検検事長は検察ナンバー2で検事総長に次ぐ地位。近年の検事総長は、ほぼ東京高検検事長が昇格しているため「7月に稲田総長退任、後継に黒川検事長」の道筋が描かれたのです。黒川氏は「政権に近い」との見方もあり、憶測をオーソライズします。
菅義偉(よしひで)官房長官は、法務省からの請議であったとし、森雅子法務相も記者会見や国会で、国家公務員法の「定年退職の特例」(同法81条の3)「その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるとき」の条文を当てはめたと答えました。
確かに検察官は国家公務員なので国家公務員法が適用されます。と同時に、検察官は「検察官法」という独自の法律にも服しなければなりません。両者の関係は「一般法と特別法」で、同様の関係性は民法(一般法)と商法(商取引のみの特別法)が有名です。一般法の範囲内で特別な決まりを作っておく必要があるため、立法化されているのです。ゆえに特別法は一般法に優先するというのが法解釈の常識とされます。
特別法たる検察庁法に定年延長の規定はありません。にもかかわらず一般法を用いた延長に「違法」「脱法」といった批判が巻き起こりました。
【関連記事】
Source : 国内 – Yahoo!ニュース