四国電力が再稼働をめざす伊方原発3号機(愛媛県伊方町)をめぐり、広島県と愛媛県の住民7人が運転差し止めを求めた仮処分について、広島地裁(吉岡茂之裁判長)は4日、「保全の必要性は認められない」として、申し立てを却下する決定を出した。住民側は、広島高裁に即時抗告する方針。
住民側が問題にしていたのは、最大の地震の揺れを示し、原発の耐震設計のもとになる「基準地震動」。四電は3号機の基準地震動を650ガルと算定しており、耐震性が十分かどうかが主な争点となった。
決定は、伊方原発の安全性について審査したのは原子力規制委員会だと指摘。想定を上回る地震動をもたらす地震が起こる危険性があるかどうかについては、四電ではなく、住民側が証明する必要があるとした。
その上で、震度6強(約830~約1500ガル)の地震でも倒壊などの危険性があるとした住民側の主張について「地盤に合わせて補正せずに数値を比較などしても、想定を上回る地震が起こる危険性があるとはいえない」と判断した。
また、保全の必要性が認められるには、①伊方原発の運転に伴って大量の放射性物質の放出が発生、継続し、住民らの生命や身体の重大な利益が侵害されていること、②想定を上回る地震発生の危険性が、訴訟の判決確定を待つ時間もなく差し迫っていること――のどちらかを証明する必要があるが「いずれも証明されているとはいえない」と結論づけた。(戸田和敬)
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〈四国電力伊方原発〉 愛媛県伊方町にある四国唯一の原発。加圧水型軽水炉(PWR)の1~3号機がある。2011年の東日本大震災後、定期検査で運転を停止。1、2号機(いずれも出力56.6万キロワット)は廃炉が決まった。3号機(出力89万キロワット)は16年8月に再稼働し、19年末から定期検査で運転を停止中。20年4月に検査を終える予定だったが、テロ対策施設の設置の遅れなどから運転停止が続いている。2017年と20年、広島高裁が運転を差し止める決定を出したが、いずれもその後、取り消されている。
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〈基準地震動〉 想定される最大の地震の揺れを表し、原子力規制委員会が採用する計算式で算出される。原発の耐震設計の根幹となる。周辺の活断層のデータなどをもとに、原発ごとに設定する。規制委は今年4月、計算方式を見直す方針を決めた。新基準では、追加の耐震工事などが必要となる原発は、3年以内に規制委の許可を受けなければならない。
再稼働、四国電力「時期は未定」
四国電力は決定後、「安全性が確保されているとの主張が認められ、妥当な決定をいただいた」とのコメントを発表した。伊方3号機が安定的で安価な電力の供給に貢献していると強調し、「安全対策に不断の努力を重ねていく」とした。
一方、具体的な再稼働の日程は決まっていない。伊方3号機では今年7月、重大事故に対応する待機要員1人が宿直勤務中に無断外出し、要員数を一時満たしていなかった保安規定違反事案が発覚。10月12日に予定していた3号機の再稼働は延期になっていた。愛媛県や伊方町が審議中で、池尻久夫・原子力部副部長は「今後の運転は地元の理解が得られてからになる。現段階では時期は未定」としている。
四電は火力発電が5割超を占めており、原油価格の高騰が業績を直撃している。10月29日に発表した2022年3月期の業績予想では、純利益を4月時点の予想から65・4%減の45億円とした。停止が長引けば、さらにコストが増える懸念もある。(加茂謙吾)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル