部落差別問題に取り組んだ作家住井すゑ(1902~97)の未公開日記が、茨城県牛久市の旧宅から発見された。代表作「橋のない川」に取り組み始める直前の55歳の時のもの。農民文学者の夫、犬田卯(しげる)(1891~1957)の死の直後に書き始められ、遺志を継いで作家を続ける決意や、「橋のない川」の冒頭を想起させる内容などがつづられている。
日記は、95歳で亡くなった住井の死後、遺族が市に寄贈した旧宅の物置の段ボール箱から見つかった。
日記帳は、元々は夫の犬田が原稿用紙152枚を冊子状に折り綴(と)じたもの。犬田は約30年にわたりぜんそくの発作に苦しみ、1957年(昭和32年)5月17日を最後に記述は途絶え、7月21日に65歳で死去した。
『日記帳をもらうことにしたからそのつもりでね』
住井はその日記帳に、夫の死後1週間経った7月28日から半年間にわたり、つづり始めた。
夫の死の悲しみにくれつつ、3日後には、遺志を受け継ぐ覚悟を示している。『足かけ38年、生活をともにした私が、あなたの仕事の意義と価値を認めている。そしてあなたの残した仕事を、必ず遂げよう』
同志のような絆の深さもうかがえる。
『あなたの農民解放の熱意は、まちがいなく、一人の農婦、住井すゑにだけは受け入れられたのだ』
強い信念が垣間見られる一方、夫を亡くした喪失感についても触れられている。死から1カ月後には『あなたの字をみるとふっと涙が出る』。12月7日には『私はあなたを愛しぬいた。もうこの地上に私の愛する人は絶対にいない』。
「橋のない川」の冒頭場面につながるとみられるのは12月24日の記述だ。
『川をへだてて、どうしてもあ…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル