日本で唯一、陸地を一切走らない。走るのは、極寒の凍った海の上。そんなクレージーなマラソン大会が、オホーツク海に面する北海道・別海町であった。視界一面、真っ白な氷と雪の大地――。「最果て感」漂う過酷な大自然のレースを、記者が自腹で走りながら取材した。
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完走率と参加費に臆したが…
「こんなクレージーな大会があるなんて!」
別海アイスマラソンの存在を知ったのは、昨年11月だった。
大会は今年で2回目。コースとなる野付湾は水深の浅い内海で、厳冬期になると全面が凍るという。公式HPを見ると、第1回大会の42キロの部の優勝タイムは5時間34分、完走率は約40%だった。
「絶対、ふつうの大会じゃない……」
数値で察した。23年の東京マラソンならば、完走率は95%。高温多湿に見舞われた北海道マラソンでさえ、81%だ。それを、わざわざ4万円もの参加費を払って出走した猛者が、半数以上、完走できていない。
現地の最低気温は「マイナス20度で普通」。推奨装備も「スキーゴーグル」「手袋2枚」など、明らかに通常のマラソン大会とは異なる。参加費も高い。
それでも、転勤で札幌市民となって1年目、島根県出身の記者にとっては「日本でここでしかできない」「道東の大自然」に心が揺さぶられた。
主催者によれば、同じような体験ができる「南極マラソン」ならば、渡航費も含めると約300万。見方によっては「安い」ともとれるのだ。しかも、「空港から会場まで車で30~40分」「街中からシャトルバス運行」。公共交通機関のみでたどりつけそうだ。
悩んだ末、16キロの部(参加費2万5千円)への挑戦を決めた。16キロは、野付湾から北方領土・国後島までの距離に相当する。「走りながら領土問題を考えて欲しい」。そんな主催者の思いにも共感した。そして3カ月弱、札幌で雪道を月間100~120キロほど走って対策、休暇を申請した。
別海町は漁業や酪農がさかんなまち。一方で、人口減少が進んでいます。アイスマラソンに込められた願いとは。
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「滑る」というより「もがく」
レース当日の2月11日、天候・晴れ。
コースは一面、真っ白な世界…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル