水洗式で換気もできる移動式の「トイレトレーラー」がこの秋、停電や断水に苦しむ台風や大雨の被災地で活躍しています。災害時に清潔なトイレを確保できるかどうかは命に関わる切実な問題。導入した自治体が被災自治体に融通する動きも広がっています。
広くて清潔、行列も
台風19号で千曲川の堤防が決壊し、浸水した長野市の赤沼地区。浸水から5日後の10月18日、「信州りんご発祥の地」の石碑が立つ公会堂前にトイレトレーラーが置かれた。静岡県富士市のもので、市職員が車を運転して引っ張ってきた。
全長5・8メートル、幅2・5メートル、高さ3・4メートル。四つの個室に水洗式の洋式トイレがついている。工事現場などの仮設トイレに比べると内部は広く、洗面台や鏡もある。太陽光発電で換気扇を回し、照明もつけられる。1500回分の汚物をタンクにためられるくみとり式だが、直接マンホールにつないで流すこともできる。
設置2日後の20日に記者が訪れると、漏電の恐れがあるため付近の民家は電気が使えない状態。多くの住民は昼は浸水した自宅の掃除をし、夜は避難所で寝泊まりしていた。ボランティアが拠点としていた公会堂のトイレは、男性の小便用以外は使用禁止になっていた。1時間ほど見ていると、30人以上の住民やボランティアらがトレーラーを使い、行列ができることもあった。
「歩いて20分の地区までトイレを借りに行っていた」という近くのリンゴ農家の女性(75)は「家のトイレは土砂が入って使えない。これはにおいもしないし、清潔」と喜んだ。別の女性(71)も「鏡もあり、特に女性にはありがたい」と話した。
トイレトレーラーは別の被災地でも活用されていた。
翌21日、福島県いわき市で物資配給の拠点となっている小学校の運動場に、静岡県西伊豆町のトレーラーが設置された。壁には町の海や山の風景が大きく描かれ、購入のために寄付した人の名も書かれている。トイレを利用した近くの男性(75)は写真を撮り、「お世話になったので覚えておいて、いつか恩返しを」と一礼した。
トレーラーは、富士市と西伊豆町のほかに、愛知県刈谷市と岡山県倉敷市も1台ずつ持っている。
昨年7月の西日本豪雨災害では、富士市のトレーラーが倉敷市に出向き、倉敷市もその後導入した。今年9月の台風15号で被災した千葉県君津市には、富士、西伊豆、刈谷の計3台が2週間ほど置かれていた。
トイレ不足、関連死の原因にも
災害時のトイレ問題は過去の災害でも問題になった。
復興庁がまとめた「東日本大震災における震災関連死に関する報告」(2012年)によると、死因を調べた1263人のうち、「避難所等における生活」が3分の1を占めた。中には「断水でトイレを心配し、水分を控えた」という例もあった。
長時間座って足を動かさずにいると足の血管に血の塊ができる「エコノミークラス症候群」の専門家、榛沢和彦・新潟大特任教授は台風19号の後、主宰する避難所・避難生活学会で、避難者20人に対し1個以上の洋式トイレを備えるよう呼びかけた。「避難所に洋式トイレがないため、危険な自宅に戻った高齢者の報告がある」と警鐘を鳴らす。
榛沢さんは「被災者への対応が進んでいるイタリアでは、避難所には真っ先に清潔なコンテナトイレが設置される」と指摘、「トイレの不足や不衛生さは、関連死だけでなく、特に高齢者が関連病になって回復が長引く原因になる」と訴える。
財政負担「ゼロ」で普及進むか
トレーラーは1台1500万円ほどで、米国メーカーが委託生産している。これから普及していくのか。
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル