観光客でにぎわう宮崎県日南市の飫肥(おび)城下町。本町通り沿いにある服部植物研究所は「世界で唯一」というコケに特化した研究所で、国内より海外で専門家を中心に知られている。
格天井に板敷きの展示室に入ると、コケはもちろん、顕微鏡や牧野日本植物図鑑(1940年出版)などがずらり。広報担当の南寿(なす)早苗さんは「何にでも触れて、聞いてもらえれば」といい、「研究所」からイメージする堅苦しさはない。
和洋折衷の建物は昭和20年代のもので、国の登録有形文化財。大窓から注ぐ柔らかい日差しを背に顕微鏡をのぞくと、ちょっとした研究者気分になれる。「『飫肥にこんなところがあったのか』と思ってもらうだけでも」と南寿さん。2階の和室でじっくりと書物を読むことも可能。時間に余裕がある観光客の多くが、満足した面持ちで帰っていくというのもうなずける。
研究所は、「コケ博士」と呼ばれた服部新佐(しんすけ)(1915~92)が戦後間もない46年に出身地に創設した。服部は生涯に約200種のコケの新種を発見し、中でも「ナンジャモンジャゴケ」と命名した原始的なコケは「20世紀最大の発見」とされる。47年から計100号発行した「研究所報告」は、国内外の論文などを収めるコケの学術書として世界的な評価を得た。
牧野富太郎にも似てる?創設者
折しも、4月から植物学の大先輩、牧野富太郎(1862~1957)をモデルにしたNHK連続テレビ小説「らんまん」が始まった。南寿さんは2人に「どことなく似ているところを感じる」と言う。ともに地方の裕福な家庭に育った。高知の造り酒屋に生まれた牧野は、独学で植物に魅せられていった。服部は東京帝国大(現・東京大)で学び、コケに取りつかれた。家業の林業を継ぐため郷里に戻ったが、私財を投じて一人で研究を続けた。
牧野は生涯に約40万点の植物標本を集めたといわれる。服部植物研究所にある標本は約52万点。種の基準となる貴重な「タイプ標本」も約4300点ある。通りに面した展示室の裏手に、これらを保管する研究・標本棟がある。簡素な外観だが、標本を保管する2階は開口部を狭めて日光を抑えるなどの工夫をしている。54年ごろに建てられ、こちらも昨年、国の登録有形文化財に指定された。
常勤研究員の鄭天雄さん(3…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル