早春の日差しがそそいだ9日、大阪府立西成高校で、3年生165人が卒業を迎えた。3年3組の沖本飛斗(たかと)さん(18)は、元担任の中根豊講師(62)と握手を交わした。
「先生に助けていただいて、卒業できました」
中学は不登校だった。自室にこもって、対戦型ゲームに明け暮れた。昼夜は逆転。心配した担任が自宅に来たが、学校よりゲームが楽しかった。気づくと、ゲームのログは4千時間。通知表には「1」が並んでいた。
小学2年で父親が病死し、母と2人暮らしだった。きょうだいはいない。
母はスーパーや清掃員のパートで、忙しく働いていた。
ただ、物心ついたころから、いつも缶酎ハイに手を伸ばしていた。
リビングのテーブルにはいつも、作り置きのご飯とB5のメッセージノートがあった。
「今日は、サケおにぎりです」
空気に触れながら握ったような、ふわっとしたおにぎりが好きだった。
そのノートの文字がだんだん、二重、三重になっていった。震える手を止めるために、酒を飲んでいるように見えた。
「これ、何?」
缶を見つけては捨てた。母はアルコール依存の治療や患者会に通い、治す努力をしていた。そんな母を助けたかった。誰にも相談できなかった。
家が近かったから、西成高校を受けた。入学して1カ月経った5月11日。土曜授業から帰宅したときのことだった。
「ただいま…」
いつもは「お帰り」という母の反応がない。感じたことがないくらい、空気が重かった。
「お母さん…」
寝室のドアを開ける前に、何が起きたかを察した。
日雇い労働者の街「あいりん地区」がある大阪・西成区の下町に、府立西成高校があります。 様々な事情を抱えながら、先生や仲間と乗り越えていく生徒たちの歩みを描きます。
母は顔から崩れ落ちたように…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル