「ペットは家族」といわれる一方で、行き場のない犬や猫が保健所に収容されるケースも後を絶たない。猫の殺処分数が全国ワーストクラスの大阪府市は「犬猫の殺処分ゼロ」を掲げ、動物愛護の取り組みを加速させている。愛猫家として知られる松井一郎市長は「最後まで責任をもって大切にして」とアピール。令和2年からは、里親になりたい人と保護猫の出会いの場となる「ネコのバス」が地域を走る。(井上浩平)
■猫多い都市部
「犬の殺処分は随分減っており、猫の殺処分をいかに減らすかが重要」。大阪府の吉村洋文知事は昨年11月の定例会見でこう強調した。
環境省によると、全国の犬・猫の殺処分数は昭和49年度から残されており、同年度の122万匹をピークに右肩下がりとなっている。平成30年度は過去最少の3万8千匹で、10年前の27万匹から約7分の1まで減った。
大阪でも殺処分数は減少傾向だが、猫は他の自治体と比べ、その数が目立つ。29年度の大阪市は997匹で、政令市の平均280匹を大きく上回った。
府動物愛護管理センターによると、捨てられたとみられる子猫や、飼い主の死亡や入院を理由に「飼えなくなった」と相談が寄せられた猫などが保健所に収容されている。
犬と比べて猫の殺処分数が多いことについて、同センターの担当者は、飼い主のマナーが向上した結果、犬は放し飼いや野良犬が減ったとした上で、「都市部はそもそも猫が多い。野良猫に餌をやる人もいるが、栄養状態がいいと繁殖してしまう」と説明する。
■餌やり規制を強化
街中での無責任な餌やりに対する取り組みは徐々に進み始めている。
大阪市議会では、猫やハトなどの野生動物への餌やりを規制する条例改正案が可決され、罰則が令和2年3月から適用される(餌や糞の清掃、不妊去勢などの実施を前提に、地域住民が協力して野良猫を世話する「地域猫」活動は対象外)。
6月には、動物の虐待防止へ罰則を強化した改正動物愛護法が施行。都道府県知事は、動物の飼育や保管によって周辺の生活環境が損なわれている場合、飼い主に必要な指導ができるようになる。
無責任な餌やり行為を問題視してきた西野修平・大阪府議(無所属)は「私の地元でも、猫への餌やり行為で周辺環境が悪化し、ノミなどによる健康被害で困っている人がいる。明確に対応指針を定めて厳しく対処すべきだ」と指摘。府は生活環境に被害を及ぼす餌やり行為などについて、基準を示したガイドラインを作成する方針という。
■虐待ダイヤルに160件
「命」をテーマにした2025年大阪・関西万博の開催に向けて「犬猫の理由なき殺処分ゼロ」を掲げる府市は、動物愛護の取り組みを本格化させている。「理由」とは、重い病気やけがなどで処分せざるを得なかったケースを指す。
昨年10月に設置した、動物虐待の相談や通報を受け付ける共通ダイヤル「♯7122」もその一つ。「悩んだら・わん・にゃん・にゃん」の語呂合わせだ。
市民から連絡が入れば、管轄する行政の担当課に転送。相談内容により、虐待なら府警が、虐待ではないが飼育環境に課題があれば行政が対応している。
管轄する府動物愛護畜産課によると、運用開始後2カ月間で、「近所の犬や猫が蹴られるのを見た」「野良猫に餌をあげている人がいる」など約160件の相談や通報があったという。
さらに府は令和2年から、ネスレ日本(神戸市)の協力で、猫の塗装をした「ネコのバス」をイベント会場などに派遣。保護猫と、里親になりたい人を結び付ける事業を始める。
吉村知事は「殺処分ゼロの数字自体が重要ではない。目標達成には殺さなければいいわけで、民間に押し付けるなどすれば可能だが、それだと命が失われることは明確だ。動物の福祉の観点を愛護行政に入れていく必要がある」と話す。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース