私たちが習慣的に使っている言葉のなかに、実は差別的な要素が隠れているかもしれません。
アメリカのダートマス大学では、ある3つの言葉が使用要注意となりました。
その中には、私たちが授業で習ったような言葉も含まれています。
日本で働くアメリカ人弁護士・ライアン・ゴールドスティンさんがハフポスト日本版に寄稿しました。
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2020年が始まり、おそらく今年もさまざまなニュースが世間を賑わし、世相を反映するたくさんの言葉が生まれるのだろう。
アメリカも同様に時代を反映した言葉は、その都度登場する。実は、先日、驚いたことがあった。ダートマス大学同窓生の会合で、「多様性」を意識した言葉に関する話題が飛び出した。多様性を尊重するアメリカらしいといえば、確かにアメリカらしいなと感じるテーマである。
その場で話題に上った言葉の中から3つを紹介したいと思う。いずれもダートマス大学では使用要注意となった言葉である。
まずは「メルティング・ポット」。日本語に訳すと「人種のるつぼ」というような意味になる。さまざまな文化を持つ人たちが集まるアメリカを表現する際に、使ったことがある人も少なくないだろう。あるいは教科書でそう習ったという人もいるかもしれない。アメリカ社会をテーマにした劇作家によるドラマからこのことばが広がったといわれている。
なぜ使用を注意するに至ったかというと、文化や民族の特色を失わないように、あるいは抑制することにつながらないようにという思いがその背景にはあるようだ。
アメリカには「メルティング・ポット」とは別に、「サラダ・ボウル」という表現がある。この「サラダ・ボウル」という言葉の方が、文化を融合するというよりも各文化を尊重するという意味合いが強く感じられるのだという。双方のニュアンスの違いは十分に理解できるし、私個人として各文化は尊重されるべきだともちろん思うが、これまで一般的にメルティング・ポットという表現に注意を促すまでには至っていなかった。
続いて、ダートマス大学ではHe/She(彼,彼女)という表現に気をつけ、性別に関わる呼び名は本人に確認するようになったという。生物学的な性別と本人の認識している性別は違うケースがあることが問題となったのだ。アメリカ精神医学会や世界保健機構において、生理学的な性別と本人の認識する性別に違和がある場合があることが論じられ、報道されているうえ、多様性を重要視するアメリカにおいては彼,彼女という言い方するときは留意するようにし、個性を尊重するのは至極当然の流れかもしれない。
ちなみに、こうした流れは日本でも見られ、日本の小学校などで性差に配慮して○○ちゃん、○○くんという呼び方をやめ、○○さんに統一したところがあると聞いた。世界的に多様性が重要視される傾向にあることを示しているのだろう。
最後は、「Illegal immigration(不法移民)」という呼び方を「undocumented immigrant」、つまり滞在許可証を持たない移民と言い換えるのだそうだ。ダートマス大学では禁止になった表現ではあるが…果たして、トランプ大統領はどう表現するだろうか。気になるところでもある。
こうした動きは大学内の規則にとどまらず、町の条例にもなっているようだ。
カリフォルニア州バークレーでは、今年、町の条例が採択された。性差を感じる既存の表現を中立的な表現に変革していこうという動きである。例えば,マンホール,そしてマンパワーといった男性を意識させる言葉を、メンテナンスホールやヒューマンパワー等と言い換えるというもので、改正される条例ではおよそ20の言葉が連ねられている。
マイノリティや性差について敏感でありたいと思っていても、慣習的に使っている言葉に差別的な要素が隠れていることがある。先日、LGBT Qの知人から「見た目の性別で判断されると胸が張り裂けそうになる。相手には悪気はないことはわかっているから責めることもできない」と聞いた。その表情の複雑さから自分にとっては単なる習慣的な言い回しであっても相手をひどく傷つけてしまうことがあることを再認識した。
今回報告した事例が、自覚もなく使っている何気ない言葉が誰かを傷つけてはいないか、考えるきっかけになればと思う。
(編集:榊原すずみ)
Source : 国内 – Yahoo!ニュース