ふと前を見ると、男の子の小さな後ろ姿が見えた。もう暗いのに、ひとりで歩いている。
4月20日の午後7時ごろ。群馬県立前橋南高校3年の川岸花琴(かのん)さん(17)は、学習塾へ向かおうと前橋市中心部を自転車で走っていた。
行き交う自転車や車は、男の子を気にとめず、過ぎ去っていく。
「変な人と思われるかも……」。川岸さんは迷った。
でも、勇気を出して声をかけた。
「お母さんは近くにいるの?」
だが、7歳の男の子の返事は、要領を得ない。「大丈夫?」と問うとうなずいたので、川岸さんは塾へ向かおうと自転車を進めた。
ペダルをこぐにつれ、後方の男の子の姿はさらに小さくなっていく。このまま見過ごすのは簡単だ。だけど、やっぱり心配が募る。
この子が事故にあったりしたら絶対後悔する――。川岸さんは男の子の元へ戻った。
そして、2度目の勇気を振り絞った。
「一緒に行こう」
連れ添って歩く間、川岸さんは男の子が不安にならないように自己紹介をしたりして、話しかけた。男の子に笑顔は見られなかったが、手に持ったぬいぐるみや自分で摘んだ花をみせてくれた。
そうして10分ほど歩いていると、2人に気づいた女性が走ってきて、男の子の名前を呼んだ。
女性は男の子が通う小学校の教師で、その直後に前橋署員も駆けつけた。母親から「息子がいなくなった」と110番通報を受け、県警と学校関係者らは午後5時過ぎから市内を捜し続けていた。
「バイバイ」。先生に会えて安心したのか、男の子は笑顔で川岸さんに手を振った。
元気なその姿を見て、小さな背中を見過ごさず「もう一度声をかけて良かった」と、心から思った。
前橋署は19日、川岸さんに感謝状を贈った。津田征一生活安全課長は「素晴らしい行動。川岸さんの気遣いと勇気に感謝したい」と話した。(杉浦達朗)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル