2019年夏の参院選で、街頭演説する安倍晋三首相(当時)にヤジを飛ばした市民らが北海道警の警察官に排除された問題の背景に迫るドキュメンタリー映画「ヤジと民主主義 劇場拡大版」が、12月9日から全国公開される。当初から4年間取材を続ける監督のHBC北海道放送報道部の山崎裕侍さん(52)は「この国に地下水脈のように流れている問題がある」と指摘し、キーワードに「迷惑」を挙げる。
山崎さんは朝日新聞の報道でこの問題の詳細を知ると、「大変なことになった」と道警や当事者らの取材を続けた。
「でも、ふと気がつくと他のテレビ局は報道しなくなり、僕らがやめると誰も報じなくなるだろうと。そう思うと、やめられなくなった」
報道を続けた結果、ある問題意識にたどり着いた。
「元道警幹部へのインタビューがきっかけで、道警だけの問題ではないと感じた。ヤジ排除に限らず、警察は僕らの見えないところで法的根拠があいまいなことをやっていると聞いた。最初は道警が首相に忖度(そんたく)して排除したのだろうと思っていたが、この国に地下水脈のように流れている問題にも気づいた」
ニュース番組の枠を超え、テレビドキュメンタリーや書籍を通じて発信を続けてきた。最新の取材成果を盛り込んだ今回の映画では、ホームレスの人が寝られないように設計されたベンチが紹介されるなど、「迷惑」だと思う感情に着目する。
「僕らは自分でも気がつかないうちに異質なものを迷惑だと排除している気がする。ヤジ排除はテレビカメラの目の前で行われたが、それを許してしまう社会の息苦しさを感じてほしい」
「誰かを迷惑だと標的にしたら、それがいつ自分に降りかかってくるかわからない。他人の権利を認めないと、逆の立場になった時に自分の権利を行使できなくなる。人権をないがしろにしたくなければ、異質なものを認め合える社会にしていくべきだ」
民主主義にとってヤジとはどんな行為か。そう尋ねると、山崎さんはこう返した。
「ヤジは『俺たちは生きているんだ』という存在の証しだと思う。自分はこんな意見を持っている、この政策は反対だ、こんな苦しいことがある、ということを表明する手段です。声を上げることで周りの人に知らせたり、考え方が変わるきっかけになったりする。声を上げられないとすれば、街頭演説に同じような考えの人しか集まらなくなって分断が一層広がる気がする」
映画を通じて届けたい思いとは何か。
「ヤジは迷惑だと思っている人にこそ、この映画を見に来てほしい。道警のヤジ排除だけをテーマにしているわけではなく、見る人によって感じることは違うと思う」(上保晃平)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル