住友重機労働組合連合会の積立年金の口座から5000万円を着服したとして、警視庁捜査2課は、元会計担当書記の女性(60)を逮捕した。テレビ朝日などの報道によれば、労働組合の会計を1人で担当していた女性が約10年間で、計約10億円を横領した疑いがもたれている。
不正に得た大金の使い道は、馬術競技の馬6頭、高級外国車ポルシェの購入などに使ったとみられている。自身のフェイスブックには購入したとみられる馬と撮影された写真が掲載されていた。横領したお金は、組合員の将来の生活を支える大事なものであり、関係者に与える影響も大きそうだ。
過去に起きた横領事件では、どのような被害弁償が行われてきたのか。有名な2つのケースを振り返ってみる。
●アニータさんに、公金総額「14億5900万円」
まずは2001年発覚の青森県住宅供給公社巨額横領事件。「チリ人妻事件」として有名な事件だ。元経理担当の男性が1993年から2001年にかけて勤務先の公社から公金総額14億5900万円を横領したもので、11億円がチリ人妻のアニータ・アルバラードさんに貢がれたとされる。
公社はチリに建てられた男性所有の豪邸などを差し押さえるなど動いたが、最終的に回収できたのは5000万円あまりだった。
男性に対する債権は青森県に譲渡されたが、その後の報道によると、男性は出所した後も生活苦を理由に1円も賠償していないという。
「週刊新潮」(2019年5月23日号)によると、男性は「月1万円ずつでも払おうと思っていますが、生活に余裕がないので法的に問題ないはずです」と答えている。アニータさんもたびたび日本のテレビに出演して「もうお金がない」としてお金を県に渡す意思を示していない。
●キャバクラ嬢に貢いだ「5億円」
次に紹介する事件も、着服金を女性に貢いでいたものだ。元経理係長の男は勤務先の工業用ゴム販売会社の口座から約5億円を着服したとして、電子計算機使用詐欺罪で懲役7年判決を受けた(東京地裁、2012年9月)。
2005年から2010年にかけて会社の口座から総額約5億円を自身の口座に振り込み、好意を寄せていたキャバクラ嬢に貢いでいた。女性は「手術費」などの名目で男からお金を要求し続けたが、病気や入院の事実はない。
ほぼ全額をホストクラブなどの遊興費に使って、1円も残っていなかったようだ。当時の報道では、キャバクラ嬢には支払い能力がなかったため、その父親が数百万円を支払うことで会社と和解したとされる。
●「被害弁償に関する今後の交渉はあり得る」
どちらの事件でも横領された金額に対して、返済されたのはごくわずかだ。横領されたお金がほとんど使われてしまっていたり、他人に貢がれてしまっていた場合、被害者は泣き寝入りをするしかないのか。
今井俊裕弁護士によれば「原則として、その全額について着服横領した者に対して損害賠償請求できます。しかし、実際のところ、十分な回収の見込みは薄い」だという。
「見込みが薄いのは、金が使われている可能性が高いからです。ただし今回、馬術競技の馬6頭、高級外国車などにも使われていたようです。これらの資産を売却換価した金銭を賠償金の一部に充てるという被害弁償に関する今後の交渉はあり得ます」(今井弁護士)
賠償請求しても、着服金のほとんどが返ってくる見込みは非常に薄い。全額となると、さらに絶望的と言ってもいいようだ。横領が起こってからでは取り返しがつかない。業務のチェック体制を改善するなど横領を起こしにくい体制をととのえるほうがよさそうだ。
【取材協力弁護士】
今井 俊裕(いまい・としひろ)弁護士
1999年弁護士登録。労働(使用者側)、会社法、不動産関連事件の取扱い多数。具体的かつ戦略的な方針提示がモットー。行政における、開発審査会の委員、感染症診査協議会の委員を歴任。
事務所名:今井法律事務所
事務所URL:http://www.imai-lawoffice.jp/index.html
Source : 国内 – Yahoo!ニュース